My Funny Valentineはジャズのスタンダード曲で、多くのアーティストがカバーしていますが、そのほとんどがバラードです。
そんな中、Oscar Petersonはミディアムファストくらいのかなり速いテンポで演奏していました。(この時の記事はこちら)
“異端”とも言えるこのアレンジですが、実は意外と原曲の意図に沿っているのかもしれない
という話を今日はしたいと思います。
元々はミュージカルコメディのための曲
以前の記事にも書きましたが、この曲は”Babes in Arms”という
ミュージカルコメディのために書かれており、
劇中ではBillieという女性からValentineという男性に向けて歌われます。
※詳しくは以前の記事に書いてあります。
→ミュージカルの内容
→歌われた場面
ミュージカルで流れたアレンジの再現版はこちらです↓
歌の内容は
「容姿をけなしつつもValentineへの恋心を表現し、自分の側にいてほしいと伝える」
というものですが、懇願するような感じではなく、
「ずっと私の側にいてよね、わかった?」
とチクリと釘をさすような感じで歌ったのではないかと考えられます。
→歌が表現している気持ちについての記事はこちら
このことを考えると、Oscar Petersonの軽やかな演奏は、ある意味原曲の意図と大きくずれてはいないと思います。
というのも、Oscar Petersonの演奏を初めて聞いた時に私が想像したのは
「バレンタインデーに好きな人にチョコをあげようとしたら、見事にフラれた上にカッコ悪いところを見せてしまった…。」
という場面で、
悲惨なバレンタインデーの様子を、コミカルな感じで演奏した曲だと思っていたからです。
実際のストーリーは全然違っていましたが、コメディのような笑える要素は感じ取っていたので、
ある意味、原曲のニュアンスが伝わる演奏だったと言えるのではないでしょうか?
Oscar Petersonは原曲を知った上で速いテンポで演奏したのか?
残念ながら、オスカー・ピーターソン自身が原曲を知った上でこのような速いテンポで演奏したという証拠は見つかりませんでした。
この曲は、1952年にチェット・ベイカーの演奏によって再発見されてからは、原曲のニュアンスとは関係なく各アーティストが自由に演奏するようになったようなので、
Oscar Petersonがアップテンポで演奏したのはたまたまだった可能性が高いです。
この曲は1952年のチェット・ベイカーの演奏以前はあまり知られておらず、彼の演奏がきっかけで世に広まりました。
このチェット・ベイカーによる演奏が切ない感じのバラードだったため、そのイメージが強くなったのです。
音源はこちら↓トランペットでの演奏です。
この録音が1952年当時のものだと考えられます。
アップテンポの演奏は他にもあった
最初の記事を書いた後、My Funny Valentineのバラードでないアレンジのものは他にないのかを探してみたら、
このようなものが見つかりました。
この演奏が録音されたのは1957年で、先ほど紹介したOscar Petersonのピアノトリオでの演奏が録音される1959年より前のことです。
主旋律はスタン・ゲッツがトロンボーンで吹いているのですが、なんとそこにはオスカー・ピーターソンと、オスカー・ピーターソントリオのベーシスト、レイ・ブラウンが参加しているのです!
もしかしたら、オスカーピーターソンのピアノトリオでの演奏は、このスタン・ゲッツの演奏から影響を受けたのかもしれませんね。
よく聴くとアドリブのフレーズもどことなく似ています。
そして、Bill EvansもJim Hallとピアノとギターのデュオで演奏していました。
これはかなり疾走感があります。
ここまでくると…、原曲からはかなり逸脱してきますね…(^^;
オスカー・ピーターソンの演奏のような明るさはないですし。
これはBill Evansが相棒のベーシストであるスコット・ラファロを亡くした直後に録音されているので、そのような心の傷が表れたのかもしれません。「何もかもぶっ壊してやるー!!!」という心境だったのでしょうか?これはあくまで想像ですが。( 笑)
まとめ
ここまで色々My Funny Valentineについて書いてきましたが、結局は正しい演奏というものはなく、アーティストが自由に演奏することで曲の解釈が広がっていくのではないかと思います。
ただ、My Funny Valentineが元々もの悲しげなバラードでなかったことが分かると、曲の聞き方も変わるのではないのでしょうか?
この記事を読んだみなさんに何か新しい発見がありましたら幸いですm(__)m
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コメント
親御さんの年齢の者です。
若い頃に聞いて、暗い、、と好きになれず聴かなくなっていましたが、久しぶりに、とあるきっかけで聴いて、そのバラードの美しいラインに今更トリコになってしまい、背景を知りたくなり、こちらにたどり着きました。
素晴らしい調査能力と根気ですね!バラードでなかったのにはビックリしました。ミュージカルのは確かに、悲しい雰囲気はなく、温かみさえ感じるラブソングですね。
アレンジって凄いなあ、と、改めて思います。
ありがとうございました!
素敵なコメントありがとうございます。
結構マニアックな記事で、読んでくださる方も少ないのでは…?と思っていたのでとても嬉しいです!
確かにミュージカルのアレンジは温かみがありますよね。
それが物悲しいバラードになったと思うと、メロディが秘める可能性って無限なんだなと感じます。